修一ブログ

イメージするものは常に最強の自分だ。

小説「電気サーカス」を読んで

 

 

『電気サーカス』では主人公、水屋口悟がインターネット創世記にてテキストサイトを作成し、そこで広がったコミュニティの所謂「オフ会」で出会った人間との交流やシェアハウスで共同生活をおこない、そこに潜む闇を描く作品である。ダイヤルアップ接続の表現等めちゃくちゃ懐かしかった。

 

瀬戸口廉也唐辺葉介)はCARNIVALの頃から大ファンだが、しばらく存在を忘れていた。

久しぶりに本棚の整理を行っていたところ出てきた「死体泥棒」を見て、最近の動向が気になって検索、何とも面白そうな作品を描いていたので購入。

 

一気読み。エモい。今までの作品では殺人や人間の死という、日常生活では到底出会わないような場面をメインで描いていたが、本作ではかなりの生活感が見て取れる。どうやら作者の自伝であるようだが、どこまで本当かどうかわからないのがこの作者の怖いところである。

 

なんというか、今の根暗インターネット中毒者に刺さると思う。特に俺のような一人でいろいろと考えてしまって気分が落ち込む人間。最近友達には「お前生きずらそうだな」って言われたばっかでまさにって感じ。メンヘラ女に煩わされるとか。

もうすでに体は疲れ切っているというのに、これから夕食を食べて、風呂にも入って、それから眠って、明日も七時に起きて、それだけでもう僕は精一杯なのだけれど、その上真赤を病院に連れて行かねばならないというのだから、陰々滅々たる気分である。しかも明日は、はじめて責任のある仕事をすることになっている。

~中略~

病院へ連れて行かなくてはならぬらしい。僕はもう、へとへとだっていうのに。このまま眠ってしまいたいのに。そもそも、具合が悪いといっても、話を聞くかぎり風邪のようじゃないか。我慢して寝ていたら治るんじゃないか? 真赤ちゃん少し頑張っておくれよ。自分の体の力で治しておくれよ。未練がましくそう思ったが、さすがに本人には言えない。

こことか俺か?ってなって笑ったし苦い記憶がよみがえった。 

 

瀬戸口の作品に一貫している、手の届かない幸せを目指して失敗する、でも生きていこう!というメッセージも、今回のヒロインであるメンヘラ女の真赤(名前である)を救おうとして失敗、転落していくが、最終的に「生きてなんとかやってる」ところにあらわされていると思う。

後半で、過去の水屋口と境遇を重ねた真赤という他人を救済し、自分も救われようとすることに対して、水屋口は最終的に間違っていた、と結論付けるが、ここまで読んできた俺としては同情してしまうし、その純粋な考えに賛同してしまっているのだよな。

 

金銭の有無で人間の心が荒むところもうまく書かれている。自堕落に生きることを否定するわけではないが、やっぱり金の有無で言動や生活が変わるのは人間なら仕方ないのかと思う。

 

父親をかっとなって殴るシーンが好きだ。バイト先に紛れ込んだドブネズミの行く末を心配し、どうするか悩み苦しむシーンが好きだ。タミさんと真赤が性交を行っているところを目撃し涙するシーンが好きだ。全てとても胸が苦しくなるエモいシーンだと思う。

両親の元を去り、車で夢を語る水屋口が急に饒舌になるシーンが好きだ。真赤の自傷行為を温かく見守り、二人で笑いあうシーンが好きだ。ミタ君が水屋口が職場に復帰して楽しそうに話すシーンが好きだ。これも心が温まる状況の裏での水屋口の辛い心情を想像し、同情してしまう。

 

こういった日常の一コマを切り取って豊かな表現に変える作家は最近本当に見ない。瀬戸口はこういったことが描ける数少ない作家なので、これからも作品を作り続けてほしい。

 

そういえば彼の作品は全部プレミアでもついているのか?中古価格が高騰している。俺はkindleで購入した、興味がある方は是非手にとってみてほしい。