修一ブログ

イメージするものは常に最強の自分だ。

ハサミ男 殊能将之

[殊能将之]のハサミ男 (講談社文庫)

 

顔ちっちゃ。何だこの表紙。売る気があるのか。

 

 ネタバレとか考えずに感想書くからそういうの無理な人は読まんでね。

 

 

このハサミ男って作品は殊能将之さんという作家のデビュー作でメフィスト賞を受賞。筆者はこの後も本格ミステリ大賞候補作の石動戯作シリーズ等書いてるらしい。

この作品も叙述トリックを用いたミステリ要素満載の作品で、あっと驚く仕掛けや伏線を多分に含んでる。

 

500ページを超える大作らしく(Kindleで読むとページ数がわからん)、ストーリーは主人公(後のハサミ男)が電車を乗り継ぎある女子高生の家を探し出すところから始まり、その女子高生の後をつけ観察しつづけるというハサミ男パートと、

連続殺人犯であるハサミ男を追う刑事パートとをいったりきたりしながら進む。

多分総計して4~5時間で読んだかな。 

 

殺人犯が主人公って作品もそれほど珍しくもないし、刑事パートとの行き来があるってのも結構あるんだけど、

面白いのがついにチャンスとなってハサミ男がその女子高生を殺す段階となってその女子高生がハサミ男と全く同じ手段で殺され、その第一発見者になってしまう。そして刑事もハサミ男も同時にその殺人犯を追うっていう展開が面白い。

 

で、なんだかんだあって衝撃の真実が!そんな叙述トリックが!

ってとこだけで読む価値はあるんだけども、この作者すげえなってそれ以外に2つある。

 

 

 

ひとつ目は描写力の高さ。

 

特にハサミ男パートが顕著なんだけど、とにかく読ませる文章を書く。何気ないオートロックの電子番や電柱、町並み、トーストやフライドポテトの描写にクスッとしたり綺麗な文章だなって感想を抱く。

そしてハサミ男といういわゆるシリアルキラーの視点からみる世の中の賛否や感想が面白い。勿論ハサミ男というシリアルキラーにも普段の生活があり、その身の回りで起こる出来事について滔々と冷笑的に物事を眺めを色々と考える。

その感想自体は特に変なところもなく、淡々と進むのだが、詳しくは読んで見てほしいんだけど都度都度急にギアチェンジをしてハイスピードでイカれた行動を行うところがほんとに読ませる。

 

デビュー作ってのも理由の一つなんだろうけど推敲に推敲を重ねた結果なんじゃないか(後述するが後の作品「鏡の中は日曜日」ではそういった感想は殆ど抱かなかった。)、所々ダレてきそうな場面でそのイカれて狂った描写が挟み込まれ、全く共感できないのにここまでスルスルと読めて次が気になってしまうのがすごい。

 

この筆者自体がとんでもない読書量というか西洋文学を好んで読んでるらしいんだけど、たしかにどことなく生死感や家族、人間の精神に対する考えについて問題提起を行うようなストーリーも熟練の作家というか、まるで村上春樹を読まされているような不思議感があるところも俺の好き。

 

ふたつ目としてキャラクターへの深堀り。

 

 

一般的な推理小説って殺された被害者に対する描写だったり感想ってほんとに簡素で、殺されても仕方のないやつだった…とかこんな子を手に掛けるなんて犯人許せない…といった方向に作家自身が誘導しがちだけど、ハサミ男が殺人犯の調査をすすめる中で被害者の女子高生についても調べるんだけど、この子に対する深堀りが凄まじい。というかその女子高生調査自体が物語の筋の一つになる。

 

調査をすすめる中でハサミ男がその女子高生の関係者に話を聞く場面が所々差し込まれるんだけど、そのインタビュー相手の女子高生に対する評価や感想が人によってぜんぜん違う。他人から見た評価をもとに女子高生の思考や感情を想像するってところがまぁ~面白い。そういった点は死んだ人の関係者をインタビューする京極夏彦の「死ねばいいのに」を強く思い出した。

最終的に女子高生がどういう考えだったかを明示しないところも読後感を悪くしていろいろと考えさせられる。

 

あとこれも詳しくは読んでほしいんだけど、医者ってキャラクターが出てくるんだけどそのサイコパス感がまぁ惹かれる。

有名所だと羊たちの沈黙レクター博士から強く影響を受けてるんだろうけど、その医者の発言や考えについて、同意しづらいんだけど説得力があって読ませる。これもまためちゃくちゃいいキャラクターだ。

 

 

 

この作者の作品は他に「鏡の中は日曜日」を読んでる。この作品も騙されたあって感想はあった、どっちも読んでない人はここ飛ばしてほしいんだけどぶっちゃけるとトリックはどっちも同じである。だから途中でトリック気づいちゃった。

思い返してみると「鏡の中は日曜日」にも冒頭の頭のおかしいキャラクターが一人称で出てきて、その描写が意味不明なんだけどめちゃくちゃ読ませる。

デビュー前に書き溜めた作品の一部何じゃないか…って想像してる。

 

ラストの世にも奇妙な物語感もいい。まだ今年始まったばかりだけど今年のベストはこれかもな。